卒業生からのメッセージ
山田 唯雄
64期卒
クラシックギター専攻
現在の活動について
現在通っている学校や活動についてお聞かせください。
現在、ドイツのワイマールにあるフランツ・リスト音楽院のクラシックギター専攻に在籍しています。学業に並行して演奏活動も行っています。今回は、京都コンサートホールでのお仕事をいただいていたので一時帰国し、その他にもいくつか演奏会を計画しています。
堀音卒業後、なぜ今の進路を選んだのか、理由やきっかけをお聞かせください。
堀音卒業後は東京音楽大学に進学・卒業しました。その後、ウィーン国立音楽大学を経て、現在に至ります。
実は大学進学を考える際、音楽大学に行こうとは思ってなかったんです。デジタルメディアにすごく興味があったので情報学部に進学したいと思い、ある大学にチャレンジしたのですが、結果は不合格だったんです。それでどうしようかと思っていたところ、東京音楽大学の先生に声をかけていただき、東京音楽大学を受験しました。
音楽大学への進学を考えていなかったということは、演奏活動ではなく別のことで食べていこう、と思っていたのですか?
「絶対ギタリストになる!」という強いビジョンまでは見えてなかったですね。それに加え、ITやデジタルメディア、メディアアートなど興味のあることを勉強してみたいと思っていました。また、どんな分野を勉強しても、最終的には自分の音楽に還元されると思っていた記憶があります。
では、音楽を軸に自分の人生を思い描いていたんですね。
そうですね。当時、平田先生に「自分は録音に興味がある」「今はクラシック音楽を勉強しているけれど、例えばミキシングをする際など、それまで勉強してきたことが活きるのではないか」と話したことがあるんです。その時、先生は僕の考えを「いいんじゃないですか」と前向きに捉えてくださったことが印象に残っています。
音楽との出会いから堀音入学まで
音楽はいつ頃から始めましたか?また、そのきっかけは何ですか?
ギターは2歳から始めました。父がギタリストなので、おもちゃ感覚で持たされたのがきっかけです。
2歳ってまだギター持てないですよね!?
ギタレレっていう小さい楽器があるんです。母子手帳には「今日は●●を弾いた」なんてメモが残ってます。
では、それからずっとギターを続けてこられたんですね。
そうですね。途中、チェロも少しやっていたんですけど、結局そっちには進まなかったです。
小さい頃から、ギターに魅力を感じておられたんですか?
いえいえ、ギターの魅力に気づいたのは最近、東京音大の卒業前ぐらいで、それまでは全然です。
もちろん、幼少期からその楽器の虜になって、のめり込んでいくタイプの人もいると思うんですけと、僕は全然そうではなくて。小さい時から続けていたのですが、なかなかその地点までたどり着きませんでした。
では、ギターを続けていくうちに自然と結果がついてきた、という感じでしょうか?
高校入学までは父に指導を受け、ぼちぼちコンクールやマスタークラスを受けていました。
結局は、他人に対してではなく「うまくできない自分」に対して負けず嫌いだったんです。コンクールって録音が残りますよね。帰宅後にいざそれを聴いてみると「なんだこの演奏は!」って思っちゃうんです。結果如何に関わらず、「こんなのでたまるか!」みたいな思いがあって、それでずっと続けていました。
堀音に入学したいと思ったのは、いつ頃でしたか?
また、堀音を知ったきっかけや、その当時の入学への想いはどんなものでしたか?
堀音の資料も父が見つけてきました。
高校受験の志望校を考える時に、「好きなことを見つけよう」「勉強したい分野を選ぼう」って言われるじゃないですか。でも、僕には「文系」「理系」など選択肢が全然ピンとこなかった。そんな時に音楽科という選択肢を知り、自分としてはしっくりきました。
では、堀音に進路を決める前に、迷いや悩んだことは無かったですか?
ちょっとはありましたよ。
(音楽家の)社会に直結している「音楽をやっている人たち」「音楽の先生」ばかりの環境に身を置くことには少し怖気付きましたし、大阪府柏原市の自宅から学校までは片道2時間くらいかかる点も悩みました。
堀音の受験を誰かに反対されましたか?
特にされなかったですね。中学校の先生も、父がギタリストであることを知っていたので。
堀音での経験について
高校生活で想い出に残っている出来事があれば教えてください。
入学式の直前、式次第に載っている校歌の楽譜を見て「いい曲だな」と思っていたんです。その後入学式の会場に移動する際、隣の同級生に肩をトントンと叩かれ「校歌めっちゃいい曲やな。」と話しかけられたのが印象に残っています。
つまり、中学校とかってそんなこと起こらないんです。楽譜を読むだけでどんな曲かイメージできる同級生はいないし、そのイメージを共有することもないので。その時「ああ、音楽高校に来たんだな」と強く感じました。
堀音で良かったことは何ですか?
特に、卒業してから「堀音でよかった」と感じることが多いですね。
ソルフェージュや楽典、音楽史など専門の授業が充実していたと思います。特に、ソルフェージュの授業はレベルが高かったですし、大学に入学してからも苦労することは全然無かったです。
また在学中は、周りに音楽をしている人がたくさんいて楽しかったです。やっぱり高校から音楽を学ぶために集まっている人たちなので、「音楽をやる」ときの意識はすごく高かったですね。
同級生と一緒に演奏をしたり、演奏を聴き合ったりする時に意見をぶつけ合ったことも勉強になりました。例えば、ピアノ専攻だったら歌やヴァイオリンなど様々な楽器の伴奏をしますよね。あるいは、弦楽器や管楽器ならオーケストラや室内楽をしたり。でも、ギターだけをやっていると他の楽器の演奏に触れることって少ないんです。堀音に進学しなければ、高校時代にそういった経験は得られなかったと思います。
自分1人で練習するのとはまた違う、他人がいるからこその学びもあるんですね。
どんな楽器でもアンサンブルを経験しておくことはすごく大事です。ヨーロッパ研修旅行の際はフルートとのデュオ、研修旅行を終えてからはヴァイオリンとのデュオに取り組んだのですが、1人で演奏するのとはまた全然違った難しさがあるので、それが経験できたことはすごく大きかったです。
また、オーケストラ定期演奏会や卒業演奏会では合唱に参加したことも大きな思い出です。普通、ギターを勉強していてミサ1曲歌うことなんてないですからね。
山田さんは、現在の校舎で3年間過ごされたんですよね。
そうです。以前の校舎(沓掛校舎)を知らないのですが、実技試験やイベントなど、この音響の良いホールで年に数回演奏することが約束されているなんて恵まれていると思います。大学と比較しても良い施設ですし、個人的にはキャパシティや残響の面から、堀音のホールは特にギターに適していると思います。
また高校当時は当たり前だと思っていましたが、全てのレッスン室に整備されたグランドピアノが揃っているなんて有り難いですよね。大学や留学も経験した今から考えると、どの部屋でも合わせができるなんて、かなり恵まれた環境です。
今現在も役立っている高校生活での経験等を教えてください。
やっぱりヨーロッパ研修旅行ですね。ヤナーチェク音楽院でレッスンを受けたり、チェコやウィーンで演奏会をしたのは有意義な経験でした。うちは家族旅行でヨーロッパに行くなんてことは無かったので、これが無ければ高校生のうちに海外に行く経験は得られなかったです。また、具体的に留学を考える際にも、1回ヨーロッパに行ったことがあるという経験はすごく大きかったです。今はドイツに留学していますが、留学を考えるきっかけの1つにもなったと思います。
では実際にヨーロッパに留学してみて、日本との違いは感じましたか?
レッスンでは、求められることが違うと言いますか、音色やアーティキュレーションなどは日本で習うよりもう1歩踏み込んで、うるさいぐらいこだわります。やっぱりレベルは高いです。
それから、演奏会は日本より行きやすいと思います。ヨーロッパは日本よりも街がコンパクトな上、教会や音楽院など演奏会ができる場が生活圏と近いので、お客さんがふらっと立ち寄れる感じです。
ウィーンなんかではオペラの立ち見もすごく安いですし、クラシック音楽に触れる習慣は何となく潜在的にあるんじゃないかと感じています。
将来の抱負/夢について
ご自身の今後の抱負や将来の夢があれば、お聞かせください。
当面は積極的にコンクールに挑戦し、今後の活動の足がかりを作っていきたいです。
それから、今も変わらず情報系への興味はあるので、それを自分の活動に還元させたいと考えています。特に動画は、音楽をやっている人間がどんなことに取り組んでいるのか、その内容を1番伝えやすいツールだと思っているので、今年はYouTubeなど動画制作活動を軌道にのせることが目標です。
小学生・中学生へのメッセージ
音楽を志す小学生・中学生へのメッセージ、アドバイスがあればお願いします。
音楽の道に進みたいのであれば、高校でしっかり音楽を勉強しておくことはキャリアの後押しになります。まだ26歳の自分がアドバイス、というのもおこがましいですが…。もしも、今の自分が中学生の自分に声をかけるなら、「音楽をする上で、堀音に進む選択は間違ってないよ」と声を掛けたいですね。高校生のうちに基礎の部分に取り組んだか否かで、大学進学後が大きく変わると思います。
そして何より…「しんどいけど楽しいよ!!」
もしも、今の自分が
中学生の自分に声をかけるなら、
「音楽をする上で、堀音に進む選択は間違ってないよ」
と声を掛けたいですね。
山田 唯雄
略歴
京都堀川音楽高校を経て、東京音楽大学を卒業。2歳の頃よりギターを始め、山田直樹(父)、藤井敬吾、江間常夫、荘村清志、高田元太郎、A.ピエッリの各氏に師事。第38回日本ギターコンクール1位、第7回イーストエンド国際ギターコンクール1位、19年 “Ligita”リヒテンシュタイン国際ギターコンクール3位等国内外多数のコンクールで入賞。秋田勇魚・井本響太とのアンサンブル「へっぽこどりぃむ」にて18年 NHK-FM「リサイタル・ノヴァ」出演。現在フランツリスト音楽院にてリカルド・ガレン氏に師事。
インタビュー実施日:2021年3月1日 現在の情報