卒業生インタビュー
田中 咲絵
現在の活動について
現在のお仕事を教えていただけますか?
京都堀川音楽高校卒業後、京都市立芸術大学 ピアノ専攻を卒業し、同大学院を2017年に修了後、演奏活動と音楽教室でピアノ講師をしています。
現在は、コロナ禍ではありますが、色々な機会をいただき、コンサートやコンクール・オーディションでの伴奏などの演奏活動と並行して、音楽教室の講師のお仕事では20名前後の生徒を教えています。
京都コンサートホールの登録アーティストとして、京都市内の小学校や施設をまわり、クラシックの素晴らしさを伝えるアウトリーチ活動もしています。
なぜ今の仕事に進むことができたのか、もし理由やきっかけがあればお聞かせください。
自分で選んだというよりは、目の前のことをこなして、喜んでやっていたら自然に現在の状況が開けてきたという感じですね。
伴奏のお仕事は、堀音時代からのつながりや紹介で、たくさんの機会をいただいています。学生時代はソロの勉強だけでなく、声をかけてもらえれば可能な限り伴奏の機会も逃さないようにしていました。気がつけばその延長線上でお仕事としてさせて頂くようになっていましたね。こればかりは自分一人ではどうすることもできない分野ですので、私の場合恵まれたご縁のお陰で今があると思います。
誰かと一緒に演奏することももちろん好きなのですが、曲を通して自分と向き合う時間も大切にしたいと思っていて、その中で自分が感じたことや面白いと思ったことを誰かと共有できたらなという気持ちで、ソロでもアウトリーチなどの演奏活動にも取り組んでいます。
音楽教室の講師のお仕事は、子供の頃からピアノの先生になりたいという気持ちがあったので、大学院修了のタイミングで本格的に始めました。生徒さんたちにレッスンを通して伝えることで、普段自分が演奏するときに考えていることがより明確に分かったり、こちらが勉強させてもらうことがたくさんあります。
高校生の頃の自分は、将来自分がどうしているかなんて想像もせずに過ごしていましたが、堀音や大学でのご縁のおかげで、今こうして自分が好きなことを仕事にすることができていると思っています。
音楽との出会いから堀音入学まで
音楽はいつ頃からはじめられましたか?
5歳の時に、ピアノ教室に通い始めました。普通に習い事としてはじめましたので、両親も、ここまで続けるとは思っていなかったと思います(笑)。
堀音に入学したいと思ったのはいつ頃ですか?
また、堀音を知ったきっかけや、その当時の入学への想いはどんなものでしたか?
ピアノやヴァイオリンで堀音を目指す人は、小さい頃から「堀音に行って音楽を頑張りたい」と受験を意識して音楽に打ち込んでいるという人も多いと思うんですけど、そんな皆さんとは違って、私が堀音を目指しはじめたのは中学3年生で遅かったんです。しかも、堀音を知ったきっかけも偶然だったんです。
堀音は、毎年5月頃、ソルフェージュの授業やオーケストラ・合唱の授業を体験できる中学生向けスクールガイダンスがあるんですね。そのスクールガイダンス開催の告知チラシが、通っていた中学の他のクラスの教室に貼られているのをたまたま見かけて、「へ〜 おもしろそう〜」と思ってスクールガイダンスに参加したんです。
実際に参加して、おもしろい、音楽をやりたいっていう気持ちになり、最終的に受験することを決めたのは、中学3年生の夏頃でした。
私が師事していた先生は、ピアノを弾くことだけでなく、楽典やソルフェージュも受験に関係なくご指導くださっていたので、準備開始が遅くても受験に対応することができました。
堀音に進路を決める前に、迷いや悩んだことはなかったですか?
なかったですね。
スクールガイダンスの時に、おもしろいし、この学校に行きたいという気持ちが湧いてからは、目の前に現れた課題を、楽しく喜んで取り組んでいきました。
もうその時から人より音楽が好きだったんですね。
どうなんでしょう?
堀音の入学案内パンフレットで、先輩方が「堀音に入るとクラシック音楽とか同じ共通の趣味で深い話ができる仲間ができて嬉しい」という趣旨のコメントがよくあるんですけど、私の場合は、中学生の頃はまだクラシックの知識はあまり深くなかったので、そういう話しをすることはありませんでしたし、周りよりも音楽が好きだったかと言われればわかりませんが、ピアノを弾くことが、ただただ楽しかったという感覚ですかね。その時は、純粋に「ピアノを弾くのが楽しい」→「ピアノができる高校があるんだ」→「じゃあ行こう!」って受験した感じですね。
後から聞いた話ですが、両親は、もし受験させず、将来「あの時受けたかったな」と後悔はさせたくないという想いがあったらしいです。その時は、私がピアノを生業にするまでになるとは想像していなかったと思いますが、今から考えると、選ばせてくれた両親はすごいと思いますし、感謝しています。
堀音での経験について
堀音に入学して、どうでしたか?
入学してから、色んなことを学び、知って、音楽がますます好きになっていきました。私にとって、堀音での3年間は、本当に楽しくて、ただただ目の前のことをこなしていってたって感じでした。
堀音だから成長できた部分、培えた力はありますか?
高校生という時期は、まだ、両親の保護下にあって、ピアノや楽器の練習をする時間も、勉強する時間も、遊ぶ時間も、自分のやりたいことが思う存分できる3年間だったんじゃないかなと思います。そんな時期に、毎週決まった時間、個別にみっちりレッスンしていただき、練習に打ち込めたのは、今思うと、自分の成長には本当に大きかったと思います。レッスンや日々の経験を通して自分が成長しているのを実感できるのがとても楽しかったですね。
それと、先生方は現役の演奏家であり、堀音を卒業された学校の先輩でもあり、経験豊富な先生や、最近まで大学や海外で経験を積まれていた若い先生もおられて、多彩な先生方から、音楽高校を出たあとのことについても、直に色々と教えてもらえるのも大きいです。
堀音で良かったことは何ですか?
1つ目は、同級生に他の楽器奏者がたくさんいて、伴奏の経験ができたことですね。
今の演奏活動の中で伴奏の仕事が多いのですが、伴奏を依頼してくださる人たちをたどると、そのほとんどのルーツが高校の同級生の男の子なんです。私の場合、SNSのDMなどを通して知らない人からの伴奏依頼を受けることは現在ほとんどしていないんですけど、その同級生のおかげで高校を卒業してから10年くらい経った今でも活動が続けられていると思っています。
堀音に集まった人達の音楽つながりで、世界が広がっているんですね。
そうです そうです。
その同級生からはじまって、また、この同級生も、またそこから知り合いにと、枝分かれで、今の人間関係が出来上がっています。高校生の頃からいろんな楽器の人との共演機会が得られるのは堀音ならではだと思います。もし、音楽大学スタートだったら、そこまで枝分かれできるほど色んな楽器の方とご一緒させてもらってたかというと怪しいですし、私にとって大きいのはやっぱり高校からのつながりですね。今では、高校の同級生の生徒さんの伴奏でも声をかけてもらうことがあります。ありがたいですね。
2つ目は、レッスンですね。
小学生・中学生の習い事のピアノって、何曜日の何時からって決まっていることが多いと思いますけど、高校では授業として組み込まれています。レッスンではピアノの弾き方や、それぞれの曲に適した音色や表現方法だったり、基礎的なことからとても丁寧に教えていただきました。この3年間は自分のピアノ人生の中で一番成長できた期間なんじゃないかなと思います。
毎週コンスタントに、先生とのレッスン時間が確保されているっていうのは、今思えば、本当に貴重なことですよね。3年生になるとレッスンが週2回受けれるようになって、より多くのご指導を受けれたのも、とても贅沢な時間でした。
3つ目は、整備された練習環境ですね。
大学に行くと、整備が行き届いていないピアノもあったりしましたが、その点、堀音のピアノはどれも整備が行き届いていて、素晴らしいです。
楽器を練習する環境だけでなく、生徒が頼りにできる先生方が揃っていて、ひとりひとりのことを考えて温かく見守ってくださる環境も、大きな魅力だと思いますね。
今振り返ると、堀音での3年間は、人間関係にしても、演奏経験にしても、音楽で生きていく下地をつくるのに大切なことが揃っていたなと思います。
将来の抱負/夢について
将来の夢や今後の抱負は?
引き続き、演奏活動、講師活動が続けられるといいなと思っています。まずは去年コロナでストップしてしまった京都コンサートホールのアウトリーチ事業に改めて力を入れていきたいです。ひとりでも多くの人が気兼ねなくクラシックのコンサートに足を運ぶきっかけを作れたらいいなと思います。クラシック音楽の魅力が少しでも伝わる演奏活動ができるよう、頑張っていきたいと思っています。
小学生・中学生へのメッセージ
最後に、音楽を志す小学生・中学生へのメッセージ・アドバイスがあればお願いします。
自分がやるべきことをしっかり感じ取って、それに没頭するということをやってみて欲しいなと思います。目の前に現れたことをこなしていくうちに、道が見えてくると思いますし、堀音に入るために必要なことも見えてくると思います。具体的に何をすればいいかわからなければ、先生に教わることをたくさん吸収してください。一生懸命蓄えていくと、将来芽が開くと思います。
それと、これは昔の自分に対しても言えることなのですが・・・ 私は、ピアノを弾くのが楽しいという気持ちで堀音に進みましたが、音楽や曲についての知識量はとても少なかったんです。ピアノ科を受験したいという人からすると多分考えられないと思うのですが、例えばベートーヴェンのソナタは「悲愴」とか「月光」くらいしか知らず、何番まであるかをわかっていませんでした。これではダメだと気づき、色々先生に聞き、親にCDを買ってもらったりして、3年間で最低限のピアノ曲のレパートリーや知識を増やしたんですね。もし、もっと早くそれらを知っていたら、自分の中でこういう曲調の曲を弾いてみたいなとか、それだったらこういう音が出せるようになりたいなとか、もっと取捨選択して主体的に練習に取り組むことができただろうなと思います。「知識は、力なり」という言葉があります。ピアノを練習するのも大事ですが、それに関わる芸術的なことの知識を広げておくのも、音楽づくりに大きく影響すると思います。「ピアノに興味があるなら、弾くことだけでなく、いろんな音楽を聴いたり、たくさんの芸術に触れて自分を深めるといいよ」ということを伝えたいですね。
堀音での3年間は、
人とのつながりも、演奏経験も、
音楽で生きていく下地になりました。
田中 咲絵
略歴
京都市立京都堀川音楽高等学校を経て、京都市立芸術大学卒業後、同大学大学院音楽研究科修士課程修了。第11回大阪国際音楽コンクールAge-H第2位。第16回同コンクールAge-G第3位。第32回京都ピアノコンクールE部門金賞及び協賛社賞。第29回京都芸術祭新人賞受賞。高校在学中に学内オーケストラと共演、卒業演奏会に出演。第27回京都芸術祭「世界に翔く若き音楽家たち」に出演。 これまでに杉本弥生、岡田一美、馬場和世、砂原悟、野原みどりの各氏に師事。現在、稲尾光子バレエスクールレッスンピアニスト、関西トロンボーン協会コンクール公式伴奏を務める等、伴奏でも活動中。三木楽器開成館、旭堂音楽教室ピアノ講師。京都コンサートホール第1期登録アーティスト。
インタビュー実施日:2021年3月22日 現在の情報